主婦である私がマルクスの「資本論」を読んでみた
直訳した題名は「あなたが家で遊んでいるというウソ」だそうです。
日本では、「主婦である私がマルクスの「資本論』を読んだら」と訳されてます。
韓国のチョン・アウンさんという主婦の方の本です。
主婦、といっても仕事を辞めるまではなかなかのエリート会社員だったっぽいです。
そんな彼女が仕事を辞めて主婦になった途端に、
身に降りかかってきた災難?を乗り越えるべく読み漁った
15冊の本から得た見識を読みやすくまとめた本です。
韓国と日本では、多少世相に違いがありますが、
欧米諸国と比べたら、かなり似通っているので、
かなり共感を持って読めました。
わかりやすく3つのポイントに絞ってご紹介します!
- 資本主義の源は無償で働く主婦だった
- 夫が妻を扶養しているのではなく、妻が夫が働けるように扶養しているのだ
- 思いがけないお金の効用
資本主義の源は無償で働く主婦だった
資本主義を形作っているのは、資源(自然)、労働者、資本家の三つ。
資源は元々は植民地、今は開発途上国という認識です。
労働者は全世界の主な働き手である男性のことですね。
資本家が資本を投じて自然から材料を取ってきて、
それを製品にするのに労働者を使い、賃金を払う。
投資するお金は最小限になるよう、莫大な利益に見合った金額は
資源に対しても、労働者に対しても支払われてはいないでしょう。
マルクスの資本論にもアダム・スミスの国富論にも
登場するのはこの三者のみ(自然、労働者、資本家)。
しかし、実は労働者を再生産するのにかかる費用について
マルっとスルーされているそうです。
つまり、労働者が家に帰ったら、ご飯を食べさせて、
洗濯した服を着せて、心や体の安定をもたらし、
かつ、次世代の労働者になりうる子供を産んで育てる。
そういったケア労働に対して、主婦(女性)が無償で働いている。
資本はそこでは丸儲けしている!
つまり、本来なら、再生産の費用も上乗せした値段をつけ、
対価を支払うべきところを、家族への『愛』という名目で
無償で働いているのが主婦なのです。
夫が妻を扶養しているのではなく、妻が夫が働けるように扶養しているのだ
世間のビジネスマンのイメージ。
パリッとしたスーツを着て、片手にコーヒーを持って、
颯爽とウォール街、または丸の内を闊歩している…。
のに比べて、世間一般の主婦といったら、化粧もせず、
ヨレヨレのTシャツにジーパン、ともすれば、そのTシャツには
子供の食べこぼしやら、料理中に飛び跳ねたシミさえも
付着している…。
しかし、冷静に考えてみれば、ビジネスマンのパリッとした
姿を形作るために働いているのは主婦です。
ビジネスマンが颯爽と歩けるように体調管理に気を配り、
家のことや子供のことを気にせずに仕事に没頭できるように、
気を配っているのはこれまた主婦です。
そして、ビジネスマンのしてることといったら、会社の社長の
膨大なお給料か株主の利益のために、さほど人が生きていくのに
必要とも思えないものを人々に売り込んでいるだけです。
人が生きていくための根幹となる、食べさせたり、寝かせたり、
家を整えたり、子供を育てたり、老人の面倒を見たり、
そういった、一銭のお金にもならないけれど、大切なことは
全て主婦がしているのです。だから、ぱっと見みっともない
主婦が、パリッとしたビジネスマンに引け目を感じる必要は
ありません。無償だけれども、極めて大切なことをやってのけているからです。
夫の稼ぎをただ家で浪費している妻、だと思われがちですが、
そうではありません。妻の働きがあってこそ、夫は外で稼いで
くることができるのです。
思いがけないお金の効用
ここまで読むと、まるで資本主義とは、女性にとって
諸悪の根源かと思うほどです。
資本イコールほぼお金のことだと思うんですけれども、
お金が逆に女性を解放したというお話を一つご紹介します。
女性が長い歴史の中で、普通に就職したり、選挙権を持ったり
するようになったのは、女性解放運動のおかげかと思って
いたこの本の作者のチョン・アウン氏。もちろんそれも
間違ってはいません。しかし、お金、というそれ自体
何の考えも持ってないもの、そして、もっとお金を稼ぐには
どうしたらいいのか、が大切な資本主義にとって、
人類の半分を占める女性が、無償で働くだけでは
もったいなかったのです。能力のある女性がお金を
たくさん稼げるのならば、稼いでくれた方がいいに決まってる。
そのためには、家にこもっていた女性ももっと社会に出るべきだし、
活動するべきだ、という考え方が生まれたという側面もあった
のです。なので、ある意味ではお金は女性を解放したとも
言えるでしょう。そして、現代においては、一定のお金を
稼ぐことができたり、持っていたりする女性であれば
かなりの権利を手にすることができるようになったのです。
アメリカのドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』に出てくる
キャリーやシャーロットやミランダ。彼女たちはおそらく
理想的な自立した女性の姿でしょう。お金とある程度の地位
があれば、結婚してるけど子供がいないキャリー、
専業主婦のシャーロット、働く母のミランダ、
のような異なる立場であっても、
その友情を育み続けることはそんなに難しくないでしょう。
しかし、開発途上国の女性たちや、一般的な日本の
女性にとって、彼女たちのような姿は日常的なものでは
ありません。結局、お金はある程度女性を解放しましたが、
お金を稼ぐ能力を持つ人に限って、ではあったのです。
まとめ
この本から得られた今まで知らなかった資本主義の姿や
どれくらい女性がいまだに搾取されているか、という残酷な事実、
等々みのり多い読書体験でした。しかし、それ以上に
この作者の謙虚で客観的な姿勢が一番印象的でした。
自分とは異なった考えを持つ人の本もたくさん読み、
違う考え方に触れた上で、自分が間違っていたと
感じたら、素直にそれを改める。やっぱり自分とは違う考え方だと
再確認することもある。そして、自分の考えというものは
変化しうるもので、正しいか間違っているか、という判断基準
ではないところで意見を表現していく姿勢に一番共感しました。
少し難しいところもありますが、一冊で15冊分の価値が
ありますので、興味があればぜひ読んでみてください。
主婦である私がマルクスの「資本論」を読んだら チョン・アウン著 生田美保訳 DUブックス